コラム「ITリフレッシュメント」

2009年8月15日

SaaS (Software as a Service)

CSAJ 専務理事 前川 徹

SaaSとは何か

 SaaS(サース)とは、Software as a Serviceの略で、直訳すれば「サービスとしてのソフトウェア」となる。簡単に言えば、ソフトウェアが提供していた機能を、インターネットを通じてサービスとして提供(あるいは販売)する仕組みのことである。
 これまではソフトウェアを自分のパソコンや社内のサーバーにインストールして利用していたが、SaaSの場合には、ソフトウェアはインターネットの「あちら側」にあって、それをインターネット経由で使うことになる。通常、そのソフトウェアのデータもインターネットの「向こう側」にある。また、利用者は、ブラウザを使ってそのサービスにアクセスするのが一般的である。
 SaaSをユーザー側からみれば、ソフトウェアを「所有する形態」から、ネットワークを介して「利用する形態」への変化だと考えればよい。
電力に例えるとわかりやすい。大規模な製造業を別にすれば、社内で使う電力を社内の発電所で作っている企業はほとんどない。家庭でも、太陽光発電などで自家発電をしている家を除けば、電力はコンセントから必要な時に必要なだけ利用するのが一般的である。この電力と同じように、情報システムも自分で保有するのではなく、必要なときに必要なだけネットワークを介して利用するというのがSaaSである。


利用者側からみたメリット・デメリット

 SaaSは、利用者側から見れば、初期投資がほとんど不要であること、導入までの期間が短いこと、試験的な導入が可能であること(したがって、新規システム導入に伴うリスクが小さくなる)、情報システムのコストを経費扱いできる(その結果としてROA(総資産利益率)が向上する)こと等、数多くのメリットがある。
 一方、インターネットを経由して利用するため、そのサービスの可用性やデータの完全性を利用企業側では完全にコントロールできないという問題や、サービスの継続の保証がない、カスタマイズや既存システムとの連携に不安があるという声がある。
 特に、セキュリティや信頼性の問題については、SaaS普及の最大の障害になるという意見が多い。しかし一方では、逆にSaaS普及を後押しする要因であるという声もある。(社)コンピュータソフトウェア協会では、2008年1月に、従業員300人以下の企業の経営者や情報システム関係者を対象にSaaSに関するアンケートを実施したが、「信頼できるベンダーであれば、自社でデータを持つより SaaSを利用した方が情報セキュリティ面で安心である」という考え方に対して、回答者の約1割が「そう思う」と答え、約5割が「ややそう思う」と回答している。つまり、回答者の約6割が、信頼できるベンダーなら、自社でデータを持つより SaaSを利用した方が情報セキュリティ面で安心だと思っているのである。
 情報セキュリティ対策や情報システムの信頼性向上のために十分な経費をかけることが難しい中小企業からみれば、自社内に情報システムを抱えて情報資産を守るより、信頼できるベンダーに情報資産を預けてしまった方が安全性は増すだろう。
 そう考えると、情報セキュリティ問題は、SaaS普及の阻害要因ではなく、むしろSaaS普及の追い風になると考えられる。


ソフトウェア・ビジネスの救世主

 前回と前々回に述べたように、パッケージ・ソフトウェアの世界はオーバーシューティングという大きな脅威にさらされている。もし、ユーザーが既存製品の性能や機能に十分満足しているのであれば、それ以上に優れた性能や新機能を持った改良バージョンを開発しても、そのソフトウェアの更新需要は見込めない。
 しかし、それがSaaSであれば、オーバーシューティングの問題は根本から解決されてしまう。SaaSのビジネスモデルの基本はサブスクライブ型である。つまり、利用者一人当たりの月額料金を決めておき、アカウント数に応じて毎月の利用料金を徴収するタイプのSaaSが最も一般的である。こうしたビジネスモデルであれば、ソフトウェアのコモディティ化やオーバーシューティングを心配する必要はない。
 また、SaaSはOSSとの相性がよい。利用者の関心は、SaaSの機能やサービスレベルにあり、SaaSベンダーが利用しているハードウェアやOS、ミドルウェアには興味はない。つまり、SaaSベンダーは、もっともコストパフォーマンスのよいシステム構成を選択できることになる。当然、SaaSベンダーの選択肢の中にはLinuxなどのOSや、MySQL、PostgreSQLなどのミドルウェアが含まれる。
 こうしたことを考えれば、SaaSはソフトウェア・ビジネスの救世主なのではないだろうか。

 さて、次回はSaaSを語る上でもっとも重要な「マルチテナントと規模の経済」を取り上げよう。

筆者略歴

前川 徹 (まえがわ とおる)
1955年生まれ、1978年に通産省入省、 機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO New York センター 産業用電子機器部長(兼、(社)日本電子工業振興協会ニューヨーク 駐在員)、情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター所長 (兼、技術センター所長)、早稲田大学 大学院 国際情報通信研究科 客員教授(専任)、富士通総研 経済研究所 主任研究員などを経て、2007年4月からサイバー大学 IT総合学部教授。2008年7月に社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。

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